FUTURE DESIGN

FUTURE DESIGN vol.53

vol.53 連載●「わっしょいニッポン」

震災で壊滅的な被害を受けた蛤浜を蘇らせる「Cafeはまぐり堂」

行政と市民の連携で災害に強い街づくり

(左上、右上)はまぐり堂のある蛤浜。地盤沈下で砂浜が消えた。(左下)譲ってもらったプレハブを自分たちの手で改装。(右下)アットホームなカフェ。

 「じいちゃんみたいに、漁師になりたかったんです。船に乗せてもらって釣りや網をあげに行くのが楽しくって」。はまぐり堂の代表亀山貴一さんは、牡鹿半島の小さな集落蛤浜で育った。クーラーボックス一杯に釣り上げた魚は、玄関前に放置。「捕ったら興味がなくなっちゃうんですよ。何せ、小さい頃からエビとかツブ(貝)をおやつに食べ過ぎたもんで」。目の前の海は、いつも亀山さんの遊び場だった。
 宮城水産高校の教員をしていた2011年3月、東日本大震災が起こる。生徒たちを避難させている頃、被害の大きかった渡波地区の実家に帰っていた亀山さんの妻とお腹の子、そして妻の家族が津波の犠牲になった。自宅は高台にあって残ったが、蛤浜の多くの家が流された。震災後は石巻の市街で暮らすことを選んだ亀山さんだが、1年たって、浜の様子を見に戻って決心をする。もう一度、人が集まれるような浜にしたい。9世帯あった集落が3世帯になっていた(現在2世帯)。瓦礫が残り、海水浴場だった砂浜は地盤沈下で消えてしまっていた。ひとりで蛤浜再生プロジェクトを立ち上げて、自分が思い描く浜の絵を描いた。家々が流された場所にカフェやギャラリーを建てたい。この浜をまた元気にしたい。絵を持って、地域の1人1人に会いに行った。集会所に集まってもらい、思いを伝えた。浜の人たちは賛成してくれたが、街の人たちのなかには冷めた意見も多かった。「〝こんな辺鄙な所に人が来るわけねえべ〞って皆に笑われました。〝それより金はどうすんだ?〞って。助成金の申請を出しても、費用対効果を理由に全滅でした」。それでも亀山さんは、1枚の絵を持って奔走し思いを伝え続けた。
 はまぐり堂立ち上げスタッフの1人、島田暢さんが当時を振り返る。「ボランティアで石巻に来て、貯金も尽きたし帰ろうかなって思ってたんです。そしたらある日、亀山さんが1枚の絵を持って僕らの所に来た。純粋に面白いなって思ったんです。金はないけど体力はあったんで」。島田さんは高校を卒業後、10年間名古屋でクレーンのオペレーターをしていた。震災を知ると、身一つで石巻に来た。大型トラックを運転してがれきの撤去活動などを1年やり、現地で知り合ったボランティア仲間同士で今後のことを考えていた時に亀山さんと出会った。それからは、生活費を稼ぐために平日は石巻市内でゴルフ場のネットを張る鳶のバイトをし、土日は「思う存分蛤浜のがれき撤去や泥かきをしつつ、海で泳いだりして蛤浜を満喫できました」とあっけらかんと笑う。仲間が仲間を呼び、週末になると蛤浜には100人規模のボランティアが集まるほどになった。
 亀山さん自身は、教師を辞めた。予算面で新築を諦め自宅を改装してカフェをやる方向に切り替えた。自宅は築100年の「こだわりが強すぎて大工さんが逃げ出して、最後はひいじいちゃんが自分の手で仕上げた」という古民家だ。
 島田さんが、しみじみと言う。「僕はクレーンで建物を作る仕事をしていたこともあって、新しい建物が建つことが復興と思っていたんです。でも石巻に来て、大事なのはハコじゃない、人なんだなって思いました。人が人を呼ぶんです」。震災から2年後、はまぐり堂はオープン。店の内装、米を炊く竈、海辺の家など、自分たちの手でモノづくりをしてきた。半島の鹿が増えすぎたことから、罠の免許を取得して、鹿の捕獲と解体にも取り組む。夏には、蛤浜でハワイ発祥のSUP(スタンドアップパドルサーフィン)の体験プログラムも始めた。「あの時、助成金を貰って新しい建物を建ててたら今の形はなかったと思うんです。金がないから皆でできることをやって、たくさんの人が関わってくれたから、今のはまぐり堂があると思う」。年間1万5千人が訪れるまでになった蛤浜。特別なものはないのに、一度来たらまた訪れたくなる場所だ。

阿部直美

1970年群馬生まれ。フリーライター。2007年より全日空機内誌の「翼の王国」で夫とともに「おべんとうの時間」連載スタート。今年の4月には「手仕事のはなし」を(河出書房新社)より出版。著書に「里の時間」(岩波新書)。

阿部 了

1963年東京生まれ。気象観測船「啓風丸」に機関員として乗船後、写真の道へ。著書の「おべんとうの時間」(1 ~3)(木楽舎)は今年の7月に4巻目が出版。2011年からはNHK「サラメシ」にてお弁当ハンターとして出演中。


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