FUTURE DESIGN

FUTURE DESIGN 2013 vol.34

2013 vol.34特集・私の忘れられない本・映画

私の忘れられない本・映画

人生の進路を左右した一本の映画との出逢い
赤間 麻里子(女優)ウエスト・サイド物語

幼稚園の時に受けた衝撃

 人生の進路を左右した1本の映画─女優・赤間麻里子さんにとって、『ウエスト・サイド物語』は、まさにそういっていい映画だった。
 『ウエスト・サイド物語』、日本での公開は1961年末、丸の内ピカデリーをはじめとする映画館で封切られ、大ヒットした。当時、この映画がいかに印象的だったかを示す2つの漫画がある。1つは手塚治虫の『新撰組』。このなかに、新撰組の芹沢鴨が京都の町を酔って歩くシーンが登場する。ページをめくると、町なかの人々全員が整然と並び、皆足を上げて踊り出す。そして、画面中央には「WESTSIDE STORY」の文字。この漫画に影響を受けて、萩尾望都さんは漫画家を目指すことになるが、それはまた別の話。もう1つは、やはり手塚治虫に憧れて漫画家になった石ノ森章太郎の『サイボーグ009』。こちらは9人のサイボーグ戦士たちが悪と闘う話だが、そのなかの1人、002は、ウエスト・サイドの元非行少年という設定であった。

赤間麻里子さん(女優)

 もっとも赤間さんがこの映画を観たのは、幼稚園の時というから、日本での初公開から、15、6年は過ぎていただろう。映画好きの母に連れられて行った映画館で観た。真っ暗ななかに口笛の音が聴こえ、やがて映画が始まると、ニューヨークを俯瞰で捉えた映像が延々と続く。次にカメラが映し出すのは、その一角のバスケットコート。たむろしていた男たちが突然、指を鳴らして踊り出す。『ウエスト・サイド物語』のファーストシーンだ。この映像に、当時幼稚園児の赤間さんは鳥肌が立ったのを今でも覚えているという。
 画面からシャワーのように「マリア」「トゥナイト」「アメリカ」などレナード・バーンスタインの名曲が次々と流れ出し、音楽に合わせたジェローム・ロビンスの振付で、役者たちはところ狭しと歌い、踊る。それを追う斬新なカメラワーク。幼い頃に、こんなミュージカル映画の洗礼を浴びた赤間さんは、この映画をことあるごとに観直しては、ニューヨークに行きたい、ニューヨークに行って自分もミュージカルをしたいという思いが強くなっていった。

ミュージカルを夢見て

今も続けているバレエを始めたのは小学校2年生の時。理由は、ミュージカルにはバレエが必要だから。母親にそう説明すると、笑っていたという。
 やがて彼女は、当時、昭和音楽大学に併設されていた昭和音楽芸術学院に進むが、ニューヨークに行きたいという思いは募るばかり。機会は19歳の時にやってきた。お金を貯め、学校を休学して3カ月間だけだが、ニューヨークにダンス留学した。ようやく夢に一歩近づいたように感じた。アルビン・エイリー・スクール、アメリカン・バレエ・シアター、ダンス・スペース・センター(現在のダンス・ニュー・アムステルダム)の3カ所に通い、バレエ、ジャズ、コンテンポラリーのレッスンを受けた。だが、彼女が思い知らされたのは、レベルの違い。本場はそれほど甘くないという厳しい現実だった。
 失意の帰国。だが、まだ諦めたわけではなかった。心機一転。昭和音楽芸術学院を退学した赤間さんは、名優・仲代達矢さんが主宰する無名塾の扉を叩く。3年間の在籍期間のうち、1年間は家から通った。だが、あとの2年は仲代さんに頼み込んで、稽古場の2階にある台本部屋に住み込んだ。三畳一間の部屋は、足がつかえて横になるのもままならない。夏はトタン屋根が猛烈な熱を含み、おまけに窓は小さく、暑くて寝不足が続く。だが、稽古はほとんどマンツーマンに近い形で学ぶことができた。
 修業期間を終えた赤間さんは、その後無名塾の劇団員として、稽古と全国ツアーの日々を過ごす。それでもまだ、ミュージカルへの夢は捨てられなかった。彼女はオーディションに応募し続ける。ホリプロミュージカル『DORA~100万回生きたねこ』に応募した最大の理由は、大好きなコンテンポラリーの振付師フィリップ・ドゥクフレの演出だったから。そしてついに彼女はそこで子猫の役を射止めた。うれしかった。東京、名古屋、フランスと回って1年間が夢のように過ぎた。だが、このミュージカルに出たことで、まるで憑きものが落ちたかのように、自分が出たいという気持ちはなくなった。ある意味、彼女の青春はそこでピリオドを打ったのだろう。


赤間麻里子さん(女優)

 昨年公開の『わが母の記』で、彼女は念願の映画出演を果たした。主人公の妻の役だった。義理の母親役を演じた樹木希林さんから、女優の凄さと厳しさを教えられた。足もとにも及ばない。あと何十年かけてでもいい。少しでもあの域に近づきたいと思った。『ウエスト・サイド物語』で目指した彼女の道は、いつしか演技派女優を目指す道につながっていた。
 この先、彼女はどう成長していくのだろう。間違いなく円熟していくであろう、その道筋を楽しみに見守りたい。


PICK UP 今回取り上げた映画『ウエスト・サイド物語』

 ニューヨーク、ウエスト・サイドの非行グループ、イタリア系アメリカ人のジェット団とプエルトリコ系アメリカ人のシャーク団は、対立を繰り返していた。あるダンスパーティでのこと。シャーク団のリーダー、ベルナルド(ジョージ・チャキリス)の妹マリア(ナタリー・ウッド)は、ジェット団のリーダー、リフ(ラス・タンブリン)の兄貴分トニー(リチャード・ベイマー)と知り合い、恋に落ちる。一方、グループの対立は激化し、決闘へと発展する。マリアに頼まれ止めに入ったトニーだったが……。
 シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を現代劇にアレンジし直した、ブロードウェイミュージカル。映画化されて、世界的に大ヒットした。

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